ストーリー
十月のとある一日。今年は十五夜の満月と皆既月食が重なる日。
高校の写真部で毎年恒例になっている“月見大会”の日だ。
大会といってもたいそうなものじゃなくて、5人しかいない部活のメンバーが、十五夜に各々のカメラや食べ物なんかを学校の近くの河原に持ち寄り、ホタルや月を写真に収める程度の小さな活動の日だ。
小さい頃からカメラと共にある僕にとっては、心から楽しみにしている日でもある。
ただそれよりも、今年もカナ先輩が参加してくれることが一番うれしい。
カナ先輩は僕の1つ上の3年生で、部活はもう引退している。国立大学を志望しているため、今は受験勉強の真っ只中で参加はできないのだろうと思っていた。
先輩は写真のことには詳しくないが、いつも僕の話を笑って聴いてくれる。あまり人と話すのが得意ではない僕の話をそうやって聴いてくれるのは、写真を教えてくれた祖父以外では先輩だけであり、とても大切な人だ。
「僕が描く未来は、いつもカメラとフウケイの中にあるんです。」
こうして自分の描く未来を語ることができたのも、先輩だけだ。
今回カナ先輩が受験勉強の合間をぬって参加してくれたのは、何か参加したい理由があるかららしい。
それなのに、僕は数日前から持病の喘息が悪化してしまい、急遽入院をしなければいけなくなった。もちろん月見大会の参加も断念せざるを得なくなってしまった。
なぜこのタイミングなんだろう。カナ先輩に気持ちを伝える最後のチャンスだったのに…。
入院の前日部活が休みだったため、帰り道に会った先輩に参加できないことを伝えると、
「そっか、残念…。写真部のみんなと、そして君との最後の思い出の日なのにね。」
「すいません。僕にとっても自分の気持ちを言葉にする、最後の機会だと思っていたので。」
「謝らないでよー。あ、そろそろ分かれ道だ。じゃあ…、またね!」
「あの、先輩!……あの、受験勉強、頑張ってくださいね。」
「…うん、ありがと!」
…また言えなかった。心臓の鼓動だけが身体の中に響いている。下唇を噛みしめながら先輩の背中とお別れをした。
―――数日後、月見大会開始の数時間前。病室にて。
「やっほー!身体は大丈夫?」
「先輩!えっと、勉強は大丈夫なんですか?」
「あまり長い時間はいられないけどね。今日はせっかく私にとって最後の月見大会で、君と話をするのも楽しみにしてたのにそれがないのも味気ないかなと思ってね。少しでも一緒に参加してる気分になれるように、これを持ってきたの。」
「月見団子…ですか?しかも、三宝(月見団子を乗せる台)まで。それにこれ、去年先輩が撮ったホタルの写真じゃないですか。」
「うん。あとね、月見大会が始まったら持ってるタブレットを開いてみて。望遠鏡から見える月の映像を映したいと思うの。それを君の端末でも観れるようにしようと思ってね。」
「今どき流行の『リモート』ってやつですね。先輩らしい発想ですね。映像でお月見をするなんて思ってもいませんでした。」
「これならひとりでもさみしくないでしょ。じゃあまた、後で連絡するね。」
―――数時間後。月見大会開始の時間。
「もしもし。観えてるかな?こっちの景色をおすそ分け。そうそう。なんで今回私が時間の合間をぬって会に参加したのか、謎解きにしてみたの。メッセージで送るから、解いてみてね。」
そうして<Question.1>と書かれたメッセージが送られてきた。
Question.1のヒント
「飛んでる蛍」は、羽根を広げているようです。窓の外と写真の中から探してみましょう。
「飛んでる蛍」を上から読んだとき、ある指示文が浮かび上がってきたら、謎の中からそれを探してみましょう。
タブレットの中に探し物はあるようです。
答えは「サンカク」です。
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